帯広市から大雪山方面の然別湖に向かって車で40分ほど走ったところにある鹿追町に「神田日勝記念美術館」が建っている。
32歳で夭折した画家の神田日勝(1937-1970)の代表作である「室内風景」(北海道立近代美術館蔵)を初めて見た時に、「なんじゃこれは!」と思った。227,3 × 181,8cmと云う大きな絵である。新聞紙を壁や床に張り巡らせた狭い部屋に、膝を抱えて座る一人の裸足の男、人形、目覚し時計、灰皿、紙袋、魚の骨、リンゴの皮や芯、竹の物差し、マッチ箱、掃除機のホース等などが雑然と床に置いてある。壁や床に張られた新聞の広告が写真の様に超リアルに描いてある。
暗〜い雰囲気の絵である。描写があまりにも細か過ぎて、写実主義と一言で云うのも憚られるほど精緻な描写に、この作者はきっとパラノイア性格の画家なんだろうなぁと思ったのであった。それが日勝の第一印象であった。
今から25年程前からであろうか。十勝ゆかりの画家の作品を集めていた時期があった。
何でも、集めるのが好きな困った性格なのである。
懇意にしていた画廊の店主から「この絵は是非とも坂本さんに持ってもらいたい」と言われて神田日勝の油絵の静物画(青リンゴとレモンが描かれている)を買ったのであった。
購入後しばらくして今度は、模造紙に書かれた「捕まった男」と云う黒いマジックペンで書かれたような作品も買って欲しいと頼まれたのである。何でも昭和44(1969)年にNHK帯広放送局から依頼され、帯広局制作の番組「若者の素顔」の背景として描いたイラスト12点の内のただ一つだけ残っている1点なのだということである。
漫画みたいな感じなのであるが、妙に趣がある絵だったので、気に入って購入したのであった。
坂本ビルにずっと飾ってあるのだが、鹿追の神田日勝記念美術館の学芸員から「今度、全作品を網羅した画集を出版したいので見せていただけないか」というメールが入ったのである。
指定されたのが15日であった。
館長と学芸員の2名で坂本ビルを訪れ、写真に撮ったり、採寸したりしていったのであった。
来年のNHKの朝ドラ「あおぞら」は十勝を舞台にした物語であるが、登場人物の中に、将来アニメーターになる主人公に絵を教える画家が出てくるらしいのだが、どうやらそのモデルが神田日勝らしいのである。
そうなると、日勝にもスポットライトが当たる可能性が高くなるのだと言う。
日勝は32歳と云う若さで亡くなっているから、作品数は少なく、希少価値も上がるかもしれないと言うではないか。
妻は「売ってしまったら?」と簡単に云うが・・・。
テレビの「開運!何でも鑑定団」でも取材に来ないかなぁ?