イオマンテを簡単に説明すると、アイヌは今頃の季節(春先)に、熊が冬眠している穴を見つけて、母熊を殺して、その肉、毛皮など余すところなく活用する。熊は天からの贈り物であるから全てを大切に頂くのだ。
熊は冬眠中に子ども生む。その小熊をコタン(村)に連れ帰って、人間の乳を与えたりしながらとても大切に育てる。熊が大きくなったら、熊の霊を天に帰す儀式を行ってその熊を殺し、またその肉や毛皮などを同じ様に余すところなく活用する。これをイオマンテという。
井沢元彦氏曰く、日本人は「穢れ(けがれ)」を嫌うから、血を直接見ない様にしている。血イコール穢れの象徴のようなものだからだ。だから昔は4本足の動物の肉は基本的に食べなかったし、動物の皮などを扱う様な職業の人間は血で穢れているとして差別してきたのが今日の部落問題なのである。
明治の文明開化以来、日本人も肉を食べるようになったが、狩猟民族が肉を食べるのとは、その傾向は自ずから異なる。いまだに屠殺の現場は見ないようにして肉だけを美味しく食べている。
しかし、果たしてそれで良いのか?
ものを食べるという行為は植物であれ動物であれ、結局は「生命を頂く」という行為であるはずだ。声を出さない植物を食べるか、生命を殺すところを見ないで肉になったものだけしか見ていないから、生命を頂いているという感覚が無いのである。
何も無理して屠殺現場を見なさいと言っている訳ではない。私も10代の頃に鶏肉の工場見学をしてから、しばらくは鶏肉を食べられなくなったことがある。直接に現場を見なくても、生命を頂いているのだと教えることは出来るはずであると思うのだ。
私たちが昔やっていた「十勝環境ラボラトリー」が2005年2月15日に出版したアイヌの絵本「イオマンテ めぐるいのちの贈り物」(文:寮美千子・画:小林敏也、発行パロル舎)という本は、まさにそんなことをベースにおいて作った絵本である。
先日、その英語版が送られてきた。
以前、このブログにも書いたが、函館ラサール高校の英語教師ピーター・ハウレット先生が、この「イオマンテ」を是非とも英訳して世界に広めたいと言ってくれたのである。とても嬉しいことである。
この絵本で、生命の尊さ、そして、その尊い生命を食事としていただくことのありがたさを、世界中に広めたいものである。