べつに重たいモノを持ちあげたという訳ではなく、北の屋台の通路に落ちていたタバコの吸い殻を拾おうとして腰を曲げたら、ギクッとなったのだ。
タバコの吸い殻という、たかが3グラム程度のモノを拾うときになったので、こんな軽いもので、ぎっくり腰になるとは思わなかったから驚いたのである。
もともと、腰が強い方ではない。中学生の時に鉄棒から落下して腰を強打して以来、腰に爆弾を抱えているようなものだった。前日に、北の屋台に石のベンチを運んだ時の疲れが溜まっていたのだろう。
医者からは2〜3日、安静にして、痛みが治まってから治療しましょうと言われたが、北の屋台でのテレビ出演や講演や視察への対応などのスケジュールがビッシリ詰まっていたので、安静にしている暇がないのだ。医者からはダメだと言われたが、マッサージや鍼灸を3日連続で受けてコルセットをまいてこの時は強引に直したが、いまだに腰には爆弾を抱えている状態が続いている。
9月11日(火)に帯広市役所で「まちづくり検討委員会」の会議に帯広商工会議所の代表という形で参加するよう要請があった。
私のまちづくりに対する持論は商工会議所の意見とは180度異なるから、私を商工会議所の代表なんかにしたら、会議所が困ることになりますよと丁重に辞退したのだが、会頭からどうしてもやってくれと懇願されたので引き受けることにしたのである。
この会議では、北海道大学の小林英嗣教授が座長を務めておられたが、商工会議所の代表である私が、会議所の意見のような話ではなく、持論を述べたので、とても驚いた様子で、今晩一緒に酒を飲みながら話をしましょうということになった。
この日は北海道には珍しい超大型の台風が上陸していた。北大のポプラ並木が根こそぎ倒れた台風である。
小林教授は北の屋台をまだ見たことがないと言うので、一応簡単に見せるだけ見せて別の店で飲もうと考えたのであるが・・・。
ところが教授を北の屋台の「農屋(みのりや)」に連れてきたら、ここでこのまま飲みたいと言う。しかし、足元には川のように水が流れ、天井からもポタポタ雨水が漏っているし、風で屋台の壁も吹き飛ばされそうな状態なのだ。
当然、こんな日に屋台は営業できないだろうし、お客さんも誰も居ないだろうと思って屋台を片づけるのを手伝ってから別の居酒屋で飲もうかと思ったのだが・・・。
ところが、他の屋台を見ても、お客さんで一杯なのだ。天井から落ちてくる雨水が客の飲んでいるコップに落ちるが、客は平然と飲んでいる。私は報告書を書かねばならないから、お客さん数人にインタヴューして歩いたら「台風なんだからこんなこと当たり前だ」と言うのである。また「十勝に台風が上陸するなんてめったにあることじゃぁないから、こんな日に外の屋台で飲んでみたかったのさ」という驚くべき答えが返ってきたのだ。
これには驚いたのなんの。普通の店で天井からの雨水がコップに入ったりしたら、汚いから取り替えろ!とかの文句が出るのが当り前ではなかろうかと思ったのだ。
お客さんが何を欲しているのかは判らないものだなぁ〜と感じた。しかし、これで、真冬の寒い時でも、「こんな寒い日に屋台で飲んでみたかった」という客も現れるだろうと確信したのだった。
そのまま台風の中を北の屋台で飲んでいたら、お客の一人が、「ニューヨークの貿易センタービルに飛行機が突っ込んだらしい。」と言い出した。
テレビのある所に行って見たら、映画のシーンのようなすごい場面がニュースで写っている。これはもう飲んでいる時ではないと、早々に解散して自宅に戻り、テレビを食い入るように見ていたのを今でもハッキリ覚えている。この後、小林教授とは今日に至るも懇意にしていただいている。(つづく)