社会人になった長男が休暇で帰って来ていた。
「他人の飯を喰う」と言うが、私には残念ながらその経験がない。大学生時代にプロマジシャンになりたかった私は、会社訪問も就職試験も受けたことがないのだ。結局、父親の反対でプロマジシャンの夢はとん挫して、父の会社に入るしかなかったのである。だから息子には就職に際しても満足なアドバイスは出来ず終いだったが、何とか希望の職種には就けたようだ。
今回は就職後の初めての帰郷である。
心配していたが、やはり他人の飯は喰ってみるものである。すっかり社会人らしくなっていたので一安心した。
27日にはもう戻ってしまうのだが、金曜日の夕食にはステーキが食べたいと言うので馴染みの「洋食のホーム」と云う六花亭本店の2階にある高級レストランに親子3人で行くことにした。
メニューを見ている時に、今日は初めて貰った給料で私たち夫婦にご馳走したいと言う。
私たち夫婦にしてみれば、安いものでも十分に嬉しいのに高いステーキをご馳走したいと言うのだ。
せっかくの申し出だから喜んで受けることにした。
息子に奢ってもらうステーキの味は格別であった。
そう云えば、私は両親に奢ったことがあったろうか?
大学卒業後にすぐに父親の会社に入社して、両親の家に一緒に住んでいたから、両親に初任給で夕食をご馳走するなんて云う発想にはならなかったように思う。
「他人の飯を喰う」ということの意味には、離れて暮らすことや、親以外の人から働いてお金を頂くという意味もあるのだろう。働くことでお金をもらえることの喜びや尊さを知ったのかもしれない。素直で心優しく育ってくれたようで嬉しい。誠実さが一番である。
私も一度経験してみたかったなぁ〜と思っているところに妻が「ホレッ、あなたも男同士として何かアドバイスをしてあげなさい」と言うから「お前は、俺の若い頃そっくりでハンサムだから、女がたくさん言い寄って来るだろうが、お母さんのようなキツイ女にだけは気を付けろよ」と言っておいた。