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観光カリスマ
坂本和昭のブログ


■2008-01-19-Saturday マジック 学生時代編 4

プロマジシャンへの夢をこのショーに賭けていた私は、

有名プロマジシャン、テレビ局のスタッフ、各大学のマジッククラブ員、アマチュアマジシャン、母親や姉、高校時代の同級生で東京の大学に進学していた友人などをこのショーに大勢招待していたのである。卒業したクラブのOBたちも大勢観に来ていた。リハーサルでの演技も完璧で、本番直前までは自信満々であったのだが・・・

生き物を扱うマジックは難しい。あまり早くにセッティングしてしまうと鳩が弱ってしまって羽ばたかなかったり、時には死んでしまう事もあるからだ。

しかし、どんなアクシデントが起きても大丈夫なように、いつも時間的余裕を持ってセッティングを開始していた。今回の本番では念には念を入れて、それを更に五分早めて開始したのだ。

伊藤君が羽を切った鳩が、私が取り出した後に助手に手渡すだけの鳩なら何の問題もなかった。

だが、よりにもよって、あろうことか『取り出した鳩を3mほど離れたところに立っている助手に向かって放り出すと、鳩が飛んでいって助手の差し出すステッキにピタッと止まる様に調教した鳩』の羽を切ってしまったのである。

「バカヤロー、本番直前に何て事をするんだ!」と怒ったら、彼は「だって昨日、先生が羽を切れって言ったジャン!」とケロッとして言った。「切るならもっと前に自分で切っている」と怒ったのだが・・・

とにかく、残された時間内で何とかしなくてはならない。怒っている暇は無いのである。演技中盤の見せ場で、鳩が飛ばなくては演技が繋がらなくなってしまう。時間にはまだ余裕があったので羽を切ってしまった鳩がキチンと止まってくれるか楽屋で実験をしたのだ。

ところが運の悪い時というのはアクシデントが重なるもので、私の前の演技者の演技時間がいつもより短縮されて終わってしまったのである。彼は本番で緊張するタイプであった。

アマチュアの発表会では良くあることなのである。

それでも、ほぼ時間通り(30秒遅れで)にセッティングを終了し、楽屋から舞台に向かう途中で、私がまだ舞台に立っていないのに幕が開いてしまったのである。3年生全員が演技する第三部の時には代役の監督を後輩の2年生にやらせていたのだ。ステージ上の確認作業無しに幕が開いてしまい、助手の一年生の女の子2人が舞台上でオロオロしている。すぐに一旦幕を下ろさせて、板付き(初めから舞台に立っている出方)で、舞台中央に立ってから再び幕を開けさせた。

気を取り直してさっそうとマジックを始めたら、右側のズボンのポケットに入れているはずの小さく丸めたシルクのハンカチが無い事に気が付いた。舞台の袖に落としてしまったのである。このハンカチは演技の前半部分で重要な役割を果たす小道具なのである。これが無いとルーティンが繋がらなくなってしまうのだ(替わりのシルクを用意していなかった私が悪いのだが)。「さぁ、どうしよう!」と慌てたが、途中で止めるわけにはいかない。咄嗟にその場で考えながら、そしてその場でルーティンを変更しながら、演技を続けるしかなかったのである。

その状況を助手の2人はまるで把握していない。

小声で助手に囁きかけながら「次はこうやるぞ」「次はこうだ」と指示を出したが、オロオロするばかり、そりゃぁそうだろう。それまでに演じてきた演技と全く違うことを急にその場でやれと一年生の女の子に言ったって対応など出来るはずもなかった。

私の演技もとにかく散々な出来であった。最後は消した筈の鳩が再び登場する爆笑の結末に終わってしまったのである。

「私のこれまでの3年間は一体なんだったのだろう?」と大ショックであった。第一部と第二部、特に雪女は高い評価を受けた。考案者・演出者としては大満足なのだが、演技者としては人生最低の出来であったから、打ち上げの時も放心状態が続いたのであった。

この時すでに私のプロマジシャンへの道は塞がってしまったのかもしれない。