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観光カリスマ
坂本和昭のブログ


■2008-02-07-Thursday 視察旅行記1

2003年10月から2004年2月までの5ヶ月間に亘って毎月3泊4日ずつ全国各地の有名な宿と温泉を訪ねて歩いた。

場所の特性を活かした宿と食の検証が目的である。

写真やビデオで見ても、切り取った構図では場所の雰囲気は判らない。ましてや食べ物の味はなおさら判らない。やはり実際に訪ねてみて、味わってみて初めて理解できるのである。

今回の視察はわざと「行き当たりばったり」を心掛けた。行く前から詳しく調べると先入観念が入って場所の雰囲気を感じることの邪魔になるからだ。また、情報誌に載っている美味い店の案内なども所詮は店側がお金を払う「コマーシャル」にしか過ぎないからだ。

地元に暮らす場所のことに詳しい人を人的ネットワークで探して、ご案内頂くことにした。この方法は結果的に良い効果をもたらした。余計な知識は素直さの邪魔である。

ホスピタリティとは何か。サービスとはどう違うのか。何故、人気があるのか。交通の便は良いのか。そんなことを実際に体験しながら検証して歩いた。

「屋久島(10月)」

10月22・23日と鹿児島県大隈諸島の屋久島を訪ねた。屋久島はユネスコの世界自然遺産に登録された場所である。ユネスコの世界遺産条約とは「かけがえのない自然やすぐれた文化財を後の世代に伝えよう」というもので日本では1993年に青森県の白神山地とともに初めて登録をされた。屋久島の登録理由は

・日本固有の植物で日本の自然景観の重要な要素である杉のすぐれた生育地であること

・失われつつある照葉樹林帯が原生の状態で残されていること

・南北へ移り変わる植生の変化が垂直分布としてみられること

で、登録地は107.5平方キロメートルで島の面積の約2割を占める。

空港を降りた途端に「重厚な場所のエネルギー」を感じた。単なる観光地とは異なる何かだ。空気の新鮮さ、水の良さを持つ場所に共通する感じだ。

ネイチャーガイドの渡辺義成さんに出迎えていただいた。午後4時に到着したが日が落ちるのが北海道よりもかなり遅いので、宿泊先の近くにできた「ホテルあかつき」という新しいホテルを見学させてもらうことにした。ハワイのホテルのようなトロピカルなイメージで一泊14,000から60,000円のデラックスなホテルである。ホテルの部屋の中やコテージ風のヴィラの中までご案内いただいた。新しいしゴージャスなのだが何かしっくりとこない、このホテルが屋久島という場所に存在する必然性が感じられないのだ。

屋久島も確かに南に位置しているがハワイのようなしつらえのホテルがこの場所に合っているとは思えない。そんな感想を持った。日も暮れ始めたので暗くならないうちに宿泊先にご案内いただくことにした。この日の宿は「自然食の宿 天然村」である。付いた途端に全員が唖然としたのが判った。玄関を入ると雑然としたたたずまいで、書類や雑誌に埋もれたカウンターに暗そうなご主人が一人で立っていた。二階の部屋に案内されたが3畳ほどの狭い部屋にこれまた狭いベッドが二つ並んでいるだけその他には小さな勉強机が一台だけ、なんとも殺風景な部屋である。窓の外のベランダ(物干し台の方が適切な表現)に出てみると真っ暗で何も見えないし蜘蛛の巣だらけ、これはひどいところに来てしまったと一同ががっくりした。

食事の前にお風呂にどうぞと案内されたが、これが手作りのお風呂、その横には鯉を飼っていたという小さな池がある。後から入ってきた人が間違って入ってしまいかねない造りだ。いやはやこれから五ヶ月間に亘って視察を開始する出だしがこれなのだ、先が思いやられると感じた。

しかし、食事が美味かった。トビウオの唐揚げなどの郷土料理や自分の田畑で有機栽培した「伊勢ひかり」という米の玄米ご飯なのだ。「自然食の宿」と銘打っているだけに食事には自信があるのだろう。食後に主の夫婦と話をすると、なんと両親が北海道の出身だという。「あがた森魚」という歌手で映画監督の弟だとのこと。世間は狭いものだ。大いに盛り上がって話しに花が咲いた。そうすると不思議なものでこの宿が「こだわりを持った良い宿」だと思えるようになっていった。朝になって、ベランダから外を見ると美しい海が見える、とても良い景観なのだ。朝食もこれまた美味しい。結局、宿の主人とコミュニケーションした瞬間から全てが変わったのである。先入観は禁物だ。充分に満足して天然村を後にした。

渡辺さんに滝を中心にご案内いただいた。とにかく美しい滝がたくさんある島だ。滝の下まで行くと心が洗われる感じだ水しぶきが気持ちよい。

島の大きさをもっと小さい島だと思い込んでいた。先入観には間違いが多い。

干潮時にしか入れない海辺の温泉(平内海中温泉)があると言うので入ることにした。海辺の岩場に温泉が湧き出ており、一日に二回、干潮前後の二時間だけ入浴できるのだという。脱衣場も無いが野趣満点だ。まさに海の中の温泉だ。すぐそこまで波が来ている。 

混浴ということで若い女性が一人で入ってきた。水着や下着を着けての入浴は禁止されている。上手にタオルで隠しながら脱いで入ってきた。そうなると男は居ずらくなってしまう。そそくさと退散した。もう一箇所海辺に露天風呂(湯泊温泉)があってそこはいつでも入浴可能だというので移動した。ここも景色は抜群なのだが、先程の時間限定の方がいかにも海の風呂に入っているという感じがしたので、少し残念であった。入る順番が逆だったら両方とも満足したことだろう。案内する順番も大切なことだ。

「いわさきホテル」という立派なホテルがあるというので、また見学させてもらった。一介の観光客なのに丁寧に部屋の中までご案内いただいて恐縮してしまった。ここは海側にも山側にも素晴らしい景観があり、敷地も広大でリゾートホテルとしては良いのだろうけど、屋久島という場所としてはどうなのだろうか?自然と一体というよりは自然と隔離してぬくぬくと室内で景色だけを眺めるホテルになってしまっている。折角の自然を感じる施設が必要だと感じた。

二日目の宿は「屋久島民家の里 送陽邸」だ。屋久島にある江戸時代の古民家をここの主が自分で分解、移築して組み立てた宿だ。決して立派な建物ではないが何ともいえない風情がある。色々なところに主のアイデアが生きている建物だ。

道路を挟んだ海側に「海の家」のような建物があり、ここで、皆で一緒に食事する。主は焼酎片手に各客を回って話をして歩く。なかなかに変な親父だ。客には外人もいたし、有名人もいた。この有名人は6度目だそうだ。リピーター客が多いのだと言う。

10時に波打ち際の手造りの露店風呂に入ることにした。しかし、台風と大潮が重なって危険だから、その上の風呂にしてくれと言われた。少々がっかりしたが仕方が無い。内風呂と露天風呂がくっついているお風呂に入った。この日は新月で月は無い。周りに人工の明かりが無いから、満天の星空だ。天の川はまさしくミルキーウェイだ。波の音を聞きながら星を眺めていたら、流れ星がたくさん見えることに感動した。8個も見つけて興奮したのだ。一時間ほどボケーと眺めていたが飽きることがなかった。

翌朝、折角屋久島まで来たのだから屋久杉を見ようということになった。地元の電気屋さんが始めたエコツアーのガイド武田春隆さんを頼んだ。唯一の専門ガイドだそうだ。朝食はおにぎりにしてもらって朝6時に迎えに来てもらった。ガイドの武田さんが白谷雲水峡に行く前に自宅に立ち寄っても良いかと聞くので、何かと思ったら、キャンプ用のコーヒーを入れる道具を用意してくれたのだ。屋久島の水は超軟水でとてもおいしいから山の水を汲んでコーヒーを入れてくれるというのである。宮崎駿のアニメ映画「もののけ姫」のモデルになった最高の景色の中で、汲みたての美味しい水で挽きたてのコーヒーをご馳走になりながら朝食のおにぎりを食べたのである。まさに至福の一時であった。

ハイキングをしている時の苔の深い緑の景色や屋久杉の大きさも感動したが、このときのコーヒーの味は格別だった。

立派な施設や過剰な接待は不要なのだ。その場所に合った「しつらえ」と「もてなし」があれば人は満足するものなのだ。