「農村民泊」で有名な大分県の安心院(あじむ)町を訪ねた。
安心院では、自分たちが暮らす町の良さを都会の人にも知ってもらい、それによって地域を元気にしようと、農家の有志三十人ほどが集まり、一九九六年に「グリーンツーリズム研究会」を発足させた。旅館業法などの法的規制の壁を「会員制」にする妙案を使って乗り越えたという。帯広の「北の屋台」にも通じるものがあり、ぜひ訪ねてみたいと思っていたのだ。
グリーンツーリズム研究会で中心的な役割をしている農家に泊まった。夕食は囲炉裏を囲み、農家の人と一緒に同じものを食べる。
「無理せず気軽に」の自然体がモットーで、民泊を手掛けるに当たっても家の改造や設備投資などは一切しなかったという。あるがままの、普段の生活を体験してもらうのである。
自分の田畑で採れた自慢の米や野菜、手作りの豆腐やこんにゃくはとてもおいしく、時間も忘れて話し込んだ。
安心院では、農村民泊を都市農村交流事業と位置づけ、宿泊代ではなく体験料を謝礼として受け取ることにした。
実績を目の当たりにした県は二〇〇二年に規制を緩和し、ついに簡易宿所として認可したのである。民が官を動かした、まさに稀有な事例だ。
土地に誇りと愛着を持ち、あきらめずに行動すれば道は拓けるのだ。