七月中旬に山形県で講演してきた。梅雨の真っただ中であったが例によって私は晴れ男、連日快晴でかえって暑過ぎるほどだった。
名産のサクランボの収穫が終わった直後だったが、兼業農家の役場の課長さんが「一本だけ収穫をしないで、あなたのために残しておいた」とうれしいことを言ってくれた。
その場でおなか一杯に食べたが、とても一人で食べきれる量ではない。取らなければ後は鳥の餌になるだけだからと、大きな箱一杯に取って渡された。いったい何万円分のサクランボを食べたのだろうか?
翌日、松尾芭蕉の「閑さや 岩にしみ入蝉の声」の俳句で有名な山寺・立石寺に連れて行ってもらった。ストレートなだけのこの句がなぜ名句なのか正直理解できずにいた。
ご丁寧に蝉まで鳴いてくれる中、千十五段の急な石段を汗だくになりながら山頂の奥の院まで上ったが、訪れる前にイメージしていた「山の寺」ではなかった。荘厳さが漂う立石寺を前に、十七文字でこの場所を表現するにはまさにこれしかないと納得した。やはり百聞は一見にしかずである。これからは先入観を持たずに素直な気持ちで訪れよう。
騒々しい下界に戻ると膝がガクガク笑う、運動不足を嘆きながらも妙に贅沢な気分の山形であった。