父は株式が好きで、結構、株の取引を行っていたのであるが、この株式を私が相続したのである。父は生前に社会の経済情勢を肌で感じるには株は最適だと言っていた。
私は賭けごとが嫌いだから、父の生前には株にはまったく興味が無かったが、相続した株をただ売り払うだけではつまらないと考えて、相続した範囲でだけ株をやってみようと思ったのだ。
父が亡くなったのはバブルが崩壊した後だから株の暴落は激しかった。相続した株の評価額は父が死んだ日の92年5月2日の評価額だから、軒並み父が購入した時点の金額よりも評価額が下がっていたのだ。それが、93年頃から一部の株が値上がりを始めたのだ。父が取引をしていた証券会社からも頻繁に電話が掛ってくる。
最初は相続した時点よりも値上がりした株を売却するだけであった。しかし、証券会社が売らせるだけで終わるはずがない。売った株で得た金で別の株の購入を勧めて来るのだ。
しかし、人の言いなりにやるのはつまらない。やる以上は徹底的に研究したい性格だから会社四季報などを買ってきて株の研究を始めたのである。
ソニー・ディズニー株その他で短期間の内に500万円以上の利益を上げてしまったのだ。こうなるとのめり込んでしまうのが私の悪い癖なのである。
株の売買がすっかり面白くなってしまったのだ。それからしばらくは株の売買に夢中になって朝から晩まで株の研究をしまくった。
しかし、会議の最中や旅行の最中にも、証券会社から携帯電話に頻繁に電話が入るようになると段々と煩わしいと感じる様になってきた。
そんな折に某証券会社の会長が帯広を来訪して、お得意さんを昼食会に招待するから是非とも出席して欲しいと言うのである。
参加してみたら、皆さんには素晴らしい情報を差し上げるからこの株の購入を検討して欲しいと、ある銘柄を指定して言うのだ。インサイダー取引になる一歩手前の危うい昼食会である。
昼食会が終わったら、その情報の株を購入しろと証券会社の社員が責め立てて言うので、会長の話を信じて購入したらこれがとんだガセネタで3日目から急激に下がり始め、またたく間に半分になった。株で儲けたと思った500万円はこれで全部パーになった。
その社員を呼んで「お前の会社は、こんなダマシをやるのか!」と怒ったのだが、購入を決めたのは私だから自己責任だ。
すっかり頭に来た私は「お前の会社とはもう取引しない。お前の会社に預けてある株は即刻引き上げる」と宣言して以来、株の取引は一切やっていない。
しかし、これが幸いしたのだ。その後に株の大暴落があったりしたから、もしもこのまま株の取引を続けていたら、私のことだからもっと大きな損害を被っていた可能性が高い。結局、差し引きゼロで終わったことで良い勉強をさせてもらったと考えることにしたのだ。
夢中になり過ぎるとダメだぞ!とあの世から父が教えてくれたのかもしれない。(つづく)