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観光カリスマ
坂本和昭のブログ


■2010-07-10-Saturday 読売新聞風向計

2010年7月9日読売新聞北海道版「風向計」掲載

「便利な世」が生む不便

世の中が効率化されて便利になればなるほど、人は忙しくなって疲れ果てる。何かおかしくないか?

ドイツの作家ミヒャエル・エンデが書いた「モモ」という物語に、「灰色の男たち」という時間泥棒が登場するが、それが本当にいて、人々が節約した時間を盗んでいるのではないかと思えるほどだ。

無駄を省くことの本来の意味は、自由な時間を増やして趣味や余暇を楽しむことにあったのではなかったのか。それが、逆に節約したはずの時間を自由に使えずに、かえって忙しく働いているように感じる。

かつて札幌市と、私が住む帯広市を結ぶ鉄道(根室本線)は富良野経由で4時間30分掛っていた。それが1981年に千歳経由の石勝線が開通し、現在は所要時間が最短で2時間10分にまで短縮された。片道2時間20分の短縮によって大きく変化したのは出張の形態だ。

札幌出張といえば宿泊が普通であったのに、現在はよほどのことがない限り日帰りになった。帯広駅を7時58分発の特急に乗れば、札幌着が10時31分。帰りは札幌発19時45分札幌発の特急に乗れば帯広着が22時13分。札幌で9時間以上の時間があるのだから、ほとんどの要件は日帰りで済んでしまう。

会議終了後の夜の付き合いに参加したければ宿泊しなければならない。酒は飲みたし、されど宿泊費は経費で出ないとなれば、帰宅することになる。

こうした事情は、飲ミニケーションが不足して人付き合いが疎遠になる要因の一つであろうし、ビジネスホテルも飲食店も客が減る要因になっているのではなかろうか。

列車での移動は、車内で読書をしたり、書き物をしたり、飲食をしたりという余裕があるからまだ良い。私は、自動車の運転は疲れるから好きではないので、たとえ高速道路が繋がって全線が無料化されても自動車で札幌に行く気にはならないが、ガソリン代がJRの料金よりも安いのならドライブがてらに行く人が増えることになるだろう。

そうなると、ショッピングは品揃えが豊富な札幌に集中するであろうことは容易に想像が着く。前向き思考の人は、帯広に客を呼び込む可能性が出てきたと言っているが・・・。時間距離が短くなることで大都市に集約される例は多く見てきたが、その逆はまだ聞いたことがない。便利になればなるほど、棲みづらい世の中になっているようだ。

便利さには不可逆性がある。いったん便利にしてしまえば、その後の不便さに必要以上に不満を感じるものなのだ。何でもかんでも便利にすれば良いってもんじゃないと思うのだが・・・。