それまでに、設計はもちろんのこと家賃などやこまかい規定なども決めておかなければならない。設計が終了しなければ建築費にいくらお金が掛るのかが判らないから、家賃の算出などの作業も不可能なのだ。
設計のアイデアは素人でも出せるが、図面を引くことはプロにしか出来ない。メンバー皆が途方に暮れてしまった。
誰か設計士で引き受けてくれる人を見つけなければ、説明会を延期せざるをえないというギリギリの段階なのだ。よしんば見つけたとしてもコンセプト等を伝えて理解してもらうまでにはかなりの時間が掛る。いろいろな人脈をたどり、遂にaddi設計工房の吉野隆幸さんを紹介してもらった。
最初は渋っていた吉野さんだったが、私も、彼しか居ないと連日彼の事務所に日参して口説き落とし、ようやく引き受けてもらった。
話は変わるが、後の2007年9月8日に帯広市のとかちプラザで建築士会の全国大会が開催され、私が基調講演を依頼された。私はこの依頼を受けた時点では既に北の屋台を卒業することが決まっていた時期なので固辞したのだが、全国の建築士に北の屋台の話を聞かせて欲しい、その話が出来るのはコンセプト等を作った貴方しかいないと説得されて結局引き受けたのだが、この講演終了後の懇親会の会場で、帯広の建築士の方々から「実は、2000年当時は、我々建築士は、帯広で屋台なんぞ出来る訳がないと冷笑していたんだよ。見る目が無かったばかりに、貴方にとても失礼なことをした」と謝られたのである。土壇場で降りた建築士も仲間から冷笑されてやる気をなくしたのだろうなぁと推察したのだった。
その点で、吉野さんはユニークな建築士であったといえるだろう。これで、設計も何とかなると思ったら、今度は、また別な法律問題の壁が出現したのである。
屋台は道路法・道路交通法・公園法・食品衛生法の4つの法律でがんじがらめになっていることは前述したが、民有地に建物を建築する際には、建築法と消防法という別の法律をクリアしなければならないことが判明したのだ。
吉野さんが市役所の建築指導課と事前の話し合いをしている際に、建築指導課の職員から「建築法では、同一敷地内には、同一目的の建築物は一棟しか建てられない」との指導を受けたと言うのである。
借りる土地の形状は間口10.9mで長さが約50mの約160坪の細長い土地である。この土地に屋台は一棟しか建てられないと言うのだ。「何ということでしょう!」これでは屋台村にならないではないか。
それから私と吉野さんの2人で、市役所通いが始まった。
3回目に訪ねた時に、私が市役所の職員に「何をもって一枚の敷地というのか?」という問い掛けに「広い道路に面していれば一枚の土地とみなす」という答えである。
「では、この160坪の土地を真ん中で切ったとしたら、東西2枚の土地とみなすのか?」と問うと「そうだ」との答え、「では、さらにこれを南北に分割することも可能か?」と問うと「それも可能だ」と答える。
「では、この土地を東西南北に4分割して登記すれば4棟の建物を建てることは可能なのか?」と聞くと「可能だ」と答える。
次に「では、何をもって一棟の建物とみなすのか?その見解を教えて欲しい」と問うと、最終的には「屋根が繋がっていれば一つの建物とみなす」との答えを導き出したのだ。
つまり、5軒ずつ屋根の繋がった屋台を1棟として、それを4棟建てれば20軒分の屋台が建てられるということだ。トイレは別目的だから敷地のどこに建ててもOKである。
後はデザインの工夫で、屋根が繋がっていても真っ平らな長屋風ではなく、1軒1軒が独立した建物に見えるように凸凹にすれば良いだけだ。吉野さんに確認したらた易いことだと言う。
今度は消防法だ。この場所は特別防火地域なので木造の建築物は建てられないという。これは費用の問題だけで、不燃性の材質を使うことでクリアできた。
まぁ、次から次へと壁が立ちはだかること。
よく他人からは「坂本さんは苦労しましたね」と言われるが、この時の私は、これらの問題を解決する方法を考え出すことが楽しくて、楽しくて仕方がなかった。
まるでマジックのタネを考案しているようでとても面白い日々であったのだ。(つづく)