妻の父親が、自分が乗っていた車(BMW730i)を、もう自分は高齢で車の運転は危険になったから処分すると言う。
私は、自動車の運転は好きではないし、車は安全に動けば良いぐらいにしか思っていないが、このBMWは別モノだった。
かなり以前にJCの全道大会で苫小牧に行く時に借りて運転したことがあったが、自動車の運転が嫌いな私でも、車の性能の良さだけは分かった。
高速道路を走ると、地面に吸いつくような感覚で安定するのだ。それまで、私が乗っていた車は、冬道の運転を考えて四輪駆動の日産テラノ・レグラスという、オフロードカーであったから、車高が高くてカーブでは安定感がない車種だったのだが、運転感覚がまるで違ったのだった。
私の乗っていた車を、廃車寸前の車に乗っていた人間から頼まれたので安価で分けてあげ、私は義父のBMWを下取り会社が提示した価格で購入したのだった。
私の車を譲った人は、モノを大切にしない人のようで、彼のアパートの前には、しばらく動かした形跡が見られないように車の屋根には雪がうず高く積まれたままになっていた。愛着のあるモノを譲るには、大切に扱ってくれる人でないと譲ったモノが可哀想になる。
義父は10年間ほどもこのBMWに乗っていたが、走行距離はまだ13000キロメートルしか乗っていなし、ボディも傷がほとんどない状態である。
私が購入してからも、現在までの7年間での累積の走行距離が4万キロメートルであるから、いかに私も運転していないかが分かろうというものだ。私はこの車をゴルフに行く時くらいしか運転しないからだ。
しかし、このBMWは素晴らしいから惚れてしまった。一旦惚れてしまうと、トコトンお付き合いしたいと思うから、以来、今日まで私はこの車を手放せないでいるし、新しく買い替えようと云う気も起らない。
5月の末に、我が社のビルの地階に入居していた「T・T・T」という居酒屋がつぶれてしまった。元は「つぼ八」という全国チェーンの居酒屋のフランチャイズ店として入居してきた店だが、社長である父親が亡くなった後に、後を継承した息子が、つぼ八のフランチャイズを脱退して自分で居酒屋チェーンを始めたのだった。
後継者によく見られる倒産パターンである。父親が偉大であればあるほど、父親を越えたということを、早く世間に自分を認めてもらいたいと考えるのだろう。無理をやったり、上手い話に乗ったりしてしまう。
また、こういう後継者になったばかりの社長を餌食にして金儲けを企む悪い奴がいるのだ。「貴方は社長になったんだから、もう即断で決められるでしょう?」とプライドをくすぐる様な上手い話を持ってくるのだ。
これで失敗してしまう2代目社長が実に多い。
専務時代は、上に父親で社長という重しがある。たとえ社長が病床に伏していて意識不明の状態にあり、普段の業務はすでに息子である専務が全て判断して実行していたとしても、難しそうな案件が出て来た時には「社長に相談しなければ・・・」という逃げ口上で時間を稼いで熟考することが可能なのだ。
しかし、父でもあり、社長でもある人間が死んだ途端に、判断が難しい難問を持ち込む人間が存在するものなのである。
そんな時に「大丈夫、貴方なら出来ますよ」と甘い囁きに乗って、実力もまだ十分に付いていないのに事業を拡大したりすると、破滅が待っている。
そういう人間をこれまでに何人も見てきた。
だから、私は、表面上は組織のナンバー2というポジションに立って、実際にはナンバー1として事業を推進するようにしてきた。それが「長と名の付くものは、自分の会社しかやらない」という考え方になっていったのである。北の屋台でもそれをやった。(つづく)