『世紀の贋作画商(「銀座の怪人」と三越事件、松本清張、そしてFBI)七尾和晃著(草思社文庫)』と云うおもしろそうな本を見つけた。
私はマジックの研究をしているから「なぜ人は騙されるのか?」ということに関心が高いのである。
小説ではなくルポルタージュで2006年に講談社から「銀座の怪人」と云う題で出版されたものの文庫版なのだが内容が面白くてすぐに全部読んでしまった。
例によって、詳しく内容を書いてしまうと、これから読む人にタネ明かしをしてしまうようなことになるから控えるが・・・。
バブル期の日本を舞台にして、大掛かりに贋作を売りまくって大儲けをしたイラン人の男のルポである。
騙された人の多くが、銀座の画商たちであり、美術館員であり、美術関係の大学教授らなど、いわゆる美術の専門家達であるところが不思議である。
風貌も、いかにも胡散臭いイラン人になぜにこんな専門家達が騙されたのであろうか。
このイラン人はこの贋作販売で数百億円もの利益を上げたというところも桁が違って面白い。
「恥」がキーワードになっていて被害者が名乗り出ないという不思議さもある。
1982年に起こった、あの「なぜだ!」の岡田茂三越社長と竹久みちの事件は薄っすらと覚えているが、それにもこのイラン人画商が関わっていたのも面白い。
現在の日本の美術館や有名企業の会社などには、まだこの時に作られた贋作画が本物として飾られていると云う話も衝撃的である。
画商という人種の怪しげさや美術界の闇の部分を見た思いがした。
必読に値するなかなか面白い本である。