「マジックの掟」
マジック界にはいくつかの掟(おきて)がある。だが、不文律であるからマジシャン各人のモラルに委ねられているのが現状である。
マジシャン仲間で有名なのは「サーストンの三原則」といわれるもので、①演技に先立ってあらかじめその奇術の内容を話さない②同じ奇術をその場で繰り返さない③種明しをしない−である。
マジックで一番重要な「驚き」が減少したり、消滅したりしてしまうからで、下手くそと言われるマジシャンはこの原則を守っていない人が多い。
次に有名なのは、念力・予知・透視などの超常現象をみせる「メンタル(超能力)マジック」を演じる場合には、これはマジックだとハッキリ言うことである。
魔術師は人類史上2番目に古い職業の一つと言われているが、マジックを使えば、簡単に不思議な超常現象を見せることができるからで、マジックは人心を惑わすようなことに利用してはいけないという戒めである。
マジシャンは超能力と称してマジックを演じてはいけないのだ。だが、これは今日に至るまできっちりと守られてはいないのが現状でもある。
かのMr.マリックも「魔術」と「超能力」を合わせた「超魔術」という造語を使って曖昧にした形で演じたがために、一時はマジック界からも世間からもバッシングを受け、後に「あれはマジックでした」とカミングアウトすることでマジック界に復帰できた経緯もある。
最近は「メンタリズム」というのがはやっているが、これもマジックの手法の一つである。
マジックは総合演芸であるから「心理学」の要素も多分に取り入れているが、いわゆる「読心術」と称するものは「コールドリーディング(事前準備無し)」も「ホットリーディング(事前調査有り)」も統計的なものであって、百発百中ではない。しかし、テレビでは正答率を高めることが求められるので、そこに「マジック」の手法を使うことになる。
「メンタリズム」は「マジック」ではないと断言すると、それはオカルトになり、インチキ宗教家や占い師と変わりなくなってしまう。
先日、朝のテレビ番組で「マジック」と宣言した上で「超能力マジック」を演じているマジシャンがいた。彼の演じていたマジックの種は旧来の応用ではあるが、演出方法を工夫して新たなマジックに生まれ変わらせていた。
「マジック」を「超能力」と称したい誘惑に負けてはマジシャン失格なのである。マジシャンにはエンターテインメントとしての「誇り」を持ってもらいたいと思う。