「アメリカで活動本格化」
「鳩をすり替え」
困った島田は一計を案じた。調教した2羽の鳩を、他の鳩と入れ替えてしまおうというのだ。替え玉用の鳩はマジシャンのゴールドフィンガーから借りた。
検疫事務所に行くのに、仕掛け付きのマジック用の燕尾(えんび)服を着て行くわけにはいかないから、ディアナが普段着のジャケットに鳩を隠すポケットを縫い付けた。そこに鳩を隠してディアナと向かい、預けてある鳩の状態を確かめたいと申し入れた。
検疫官は10羽の鳩が入ったケージを持って来て「ちゃんと世話をしているから大丈夫」と言ったが、「鳩の羽に羽虫が付いている場合があるから調べたい」と言い、ケージから1羽の鳩を出して羽を広げると、はたして羽虫が付いていた。
その羽虫を検疫官に見せて「何かパウダーの様なものはないか?」と聞くと、探しに別室に出て行ったので、その隙にポケットの鳩とケージの鳩の2羽をすり替えた。この間わずか30秒ほど。検疫官が戻って来て「あいにくそういうモノはないなぁ」と言う。ジャケットの隠しポケットの中にはすり替えた鳩が入っている。ディアナが目配せをしたので、急いで検疫事務所の外に出た。
「現代なら監視カメラだらけだから、こんなことはもう無理だし、もし見つかっていたら、グリーンカードもパァーになっていたかもしれない。私にとって絶対に失敗したくないトリックだった」といたずらっぽい目をして笑った。こうして出演した2回目の「トゥナイト・ショー」も大成功であった。
この後は念願であったアメリカでの活動が本格的に始まる。グラミー賞やアカデミー賞の授賞式で有名なロサンゼルスのシュライン・オードトリアム、ラスべガスの三大レビューショーであるディーンズ(現在ベラッジオホテルが建っている場所にあったホテル、1993年に閉鎖)のカジノ・ド・パリ等に出演した。
この頃に、マネージャーのチャニング・ポロックから「傘は良い演技だけど、何かが足りない。それが何なのかは私にも分からないけれど」とのサジェスチョンがあった。傘のアクトに緊張と緩和の要素を加えたが、さらにドラマ的要素と観客の感情に働き掛けるものが必要だと感じた。そのヒントは日本の郷土芸能にあった。
「大蛇の神楽ヒント」
70年の大阪万博で見た島根県出雲地方の八岐大蛇のお神楽であった。島田は40年辰(たつ)年の生まれで「龍」からインスピレーションが湧いたのである。日本に帰って島根県のお神楽に連絡を取って、龍を製作してもらい、東宝には舞台セットを頼んで手順を組み上げた。
(マジック・ミュージアム館長、坂本和昭、写真は島田氏提供)
【写真のキャプション】ドイツ、フランクフルトTIGERPALAST VARIETE THEATER 出演時の絵はがき(2002年8月〜2003年2月)
2019年4月12日 十勝毎日新聞掲載