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観光カリスマ
坂本和昭のブログ


■2023-11-08-Wednesday イノベーションの作法⑤

開花期~巧みな運営で成長軌道へ

オープン当初から、観光客、出張族、そして、地元の人々が押しかけ、予想をはるかに超える大ヒットを記録した。

店主たちは夕方出勤すると、厨房横の収納庫から客席部分を引き出し、組み立てる。客席まで固定式にしなかったのは、あくまでも「屋台」であることへのこだわりからだ。店主にとっては不便だが、逆に効果があった。

開店前に屋台を組み立て、閉店後はまた収納するのは面倒だ。できればやりたくない。だから、隣同士、お向かいさん同士で手伝い合う。屋台の不便さが店主同士のコミュニケーションも生んだのだ。北の屋台をモデルにした屋台村の多くは客席も全部建て込みにしたため、隣がいつ来て、何をしているかわからない。横の結びつきでは大きな違いが生じた。

不便さが人と人とのコミュニケーションを生む。一貫したコンセプトが、北の屋台の成長を支えている。

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絶滅を待つだけだった既存の屋台と、新たな可能性を見つけた北の屋台はどこが違ったのか。学生時代、プロのマジシャンを目指したこともあり、マジックでは玄人はだしの一面も持つ坂本は、こんな喩えをする。

「マジックは現実にはありえないと思われることを目の前に見せて、お客を感動させます。ただ、不思議に見えるものにもタネがあります。お客から見て見え方は一つでも、演じる方のタネはいくつもある。一つのものを目指すとき、途中で無理だと諦めるか、それとも、諦めずにこの方法がダメなら、また別の方法を探そうと実現できるまで考え続けるか、その意味では、北の屋台もついにタネを探し出した一つのマジックなのです」

北の屋台では出店者とは三年契約で、固定客とノウハウを十分に身につけた店主は卒業し、近くの空き店舗に移っていく。すでに一軒が巣立った。資金のない若手に屋台を提供し、賃金を保証して一年後に正規出店者として独立させる「起業塾」からも二人の経営者が育った。

従来、十勝産の新鮮で良質な農産物はもっぱら東京に送られ、地元住民が味わう機会は少なかった。それが、北の屋台の誕生以来、農家が自分の畑の野菜を持ち込み、自らも客になって自慢話を語るようになった。評判が評判を呼んで、坂本たちのねらいどおり、客の七割は地元客が占める。地元の味に感動した地元の客が次は遠来の客に十勝の自慢話をする。

十勝産を十勝で食べる「地産地消」と地元住民の「十勝自慢」。空洞化していた街にダイナミックな動きが芽生え始めた。これまではありえなかったことを次々目の前に見せる北の屋台マジック。新たな感動は、まだ続きそうだ。

(つづく)