«前の日記(■2023-11-08-Wednesday) 最新 次の日記(■2023-11-10-Friday)»
 | トップ |  | ビル概要 |  | テナント構成 |  | 沿革 |  | アクセス |

観光カリスマ
坂本和昭のブログ


■2023-11-09-Thursday イノベーションの作法⑥

イノベーションの物語から何を学ぶか③

理想主義的プラグマティズムの要諦①

善悪の判断基準を明確に持つ

この章の第一の目的は、第1章でイノベーターの行動原理として挙げた理想主義的プラグマティズム、すなわち、理想を追求しながら、同時に現実的な対応や現実への目配りを忘れず、目指すものを具体化していくというイノベーターの実現力をより詳しく検証することにある。

このケースの主人公である坂本氏にも、理想主義的プラグマティズムの典型を見ることができる。

坂本氏は、まちづくりの理想を徹底的に追求している。こんなエピソードがある。あるとき、北の屋台の盛況ぶりを見た食品会社から「北の屋台ブランドの商品を開発して販売しないか」と企画を持ちかけられた。土産品にもなり、知名度も上がり、ライセンス料など大きな収入が期待できるので、通常なら乗る話だろう。坂本氏自身、本業の貸しビル業ではビル内で土産物店も経営している。

しかし、坂本氏は、「北の屋台ブランドの商品を売り出すのは大量生産大量消費の文化である。一方、屋台は店主の個性が一番重要な要素であって“人”がすべてであり、けっして規格化、標準化できるものではないからそぐわない」として断っている。ここに、表面だけをマネして失敗した他の屋台村との決定的な違いがよく表れている。

坂本氏が徹底して理想を追求するのは「何がよいことなのか(What is good?)」という善悪の判断基準を明確に持っているからである。真・善・美の価値基準といってもいいだろう。

失敗した他の屋台村は、客席が多い方が客が入るだろうと屋台の本質を理解せずに店を拡大したり、収益とは直接結びつかないトイレへの投資を惜しんだりと、理念なき金儲け主義が先行した。

これに対し、坂本氏はまちづくりという公共善を志向し、人と人とのコミュニケーションが何より重要であるという価値軸が一貫して揺るがなかった。北の屋台の成功に至る経緯を見ると、善悪の明確な判断基準があらゆるプロセスを下支えしていたことがわかる。

北の屋台では出店者とは三年契約であり、第一期が終わって四年目に入る際、坂本氏は何軒かの屋台と契約を打ち切っている。実は第一期では、個人だけでなく、企業の参加もあった。

企業が経営する屋台は社員が店主として派遣された。個人経営者と比べ、当事者意識が希薄になり、顧客とのコミュニケーションの取り方にも不十分な傾向が見られた。これでは一緒にチームを組むことは難しいと判断し、契約を打ち切ったのである。ここにも、明確な判断基準が垣間見える。

このようにイノベーターは何よりも不屈の信念で理想を追求する理想主義者でなければならない。これは最も基本の原則である。

(つづく)