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観光カリスマ
坂本和昭のブログ


■2023-11-10-Friday イノベーションの作法⑦

理想主義的プラグマティズムの要諦②

「何がよいことなのか」はっきりするとミクロの直観力がつく

善悪の判断基準力はイノベーターに求められるあらゆる能力を根底で下支えする。例えば、「何がよいことなのか」が明確であるとミクロの直観力が鍛えられる。

坂本氏も海外で屋台のある現場を見て歩き、屋台は世界中どこでも平均三坪の広さであり、その狭さがコミュニケーションを生むという本質を直観的に見抜いた。

実は当初、屋台のアイデアが交流会のメンバーから出た時点では、「あまり乗り気ではなかった」。それが現場に行き、屋台の可能性を直観したのは、「人中心のまちづくりを目指すには人と人とのコミュニケーションを取り戻さなければならない」という強い問題意識があったからだ。

人は問題意識が明確であるほど、見えないものが見えるようになる。その問題意識を生み出すのは、脳裏から消えることのない「よいこと」を追求する思いにほかならない。

北の屋台では厨房部分は固定式だが、客席部分は組立式になっており、毎日、出し入れをしなければならない。固定しなかったのもワクワク感やドキドキ感の直観によると坂本氏はこう話す。

「人間はあまりに完全なものより、どこか少し不健全であったり、猥雑さのあるものにあやしげな魅力を感じてワクワクドキドキします。屋台も同じで、昼間は何もないところに夜忽然と店が現れる。その非日常性に引かれ、高揚感を覚える。客席部分を組立式にしたのは、あくまでも屋台の仮設性を残して、非日常性を演出したかったからです」

一方、北の屋台をマネしたところは、リーダーが不在なまま、「店の設計はプロに任せよう」ということになり、設計のプロは「客席も固定式にして広い方が便利だろう」と考え、結果、屋台でなくなり、客は何のワクワクドキドキもしなくなってしまった。「何がよいことなのか」が明確であると、「不健全さ」「猥雑さ」の価値が見えてくるのである。

このように北の屋台では、屋台の本質をつかんだことで、屋台村によるまちづくりが正当化され、強い説得力が生まれ、その後、立ちはだかった数々の壁を突破することができた。他方、北の屋台の表面だけをマネして失敗した他の地域には、善悪の明確な判断基準がなかったため、本質が見えなかった。この違いはきわめて教訓的である。

(つづく)