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観光カリスマ
坂本和昭のブログ


■2023-11-11-Saturday イノベーションの作法⑧

理想主義的プラグマティズムの要諦③

「よいこと」を実現するためには手段を選ばず

理想を追求しながら、その一方では現実の状況に対しても的確に対応し、目指すものを必ず実現する。坂本氏の場合、もう一つ目を見張るのが、ときとしてリアリズムに徹する実現力である。

法律の壁に突き当たれば、行政担当者に対してしつこいまでにネゴシエーションを重ねながら、法律のグレーゾーンを巧みについていく。法律は本来は公共善のためにあり、グレーゾーンは善とは対極にある目的で利用されることが多く、それを「法の抜け道」と呼んだりする。

しかし、法律が本来の精神と離れ、きわめて官僚的で硬直的に運用された場合、逆にグレーゾーンをついて、非合法なものを合法化させる。法の改正という正攻法をとった日には、いつ屋台が合法化されるかわからないような状況においては、徹底して現実的な対応をとる。右手でビジョンを掲げつつ、左手で法律の抜け道を探るところにイノベーターの真骨頂がある。

また、屋台村によるまちづくりについて地元を説得する際、「理論だけではなかなか納得してくれない」と現実を直視してことを急がず、一年間を広報活動にあてるという戦略的な判断を行っている。本来なら「客観報道」を原則とするマスコミを取り込み、ある意味、意図的に利用しながら世論をじっくりと喚起していった手腕は特筆すべきである。

特に駐車場の地主との交渉は、固定施設を設置するとなると権利関係も絡み、そう簡単ではないことは、自身不動産業を経営している坂本氏は十分予想できたはずだ。そこで場所探しをイベント化し、一般参加者を募って話題性を高め、マスコミを動員してあえて情報をオープンにすることで世論を味方につけ、それを一種の錦の御旗にして、地主との交渉に臨み、契約へとこぎつけるという巧みな戦術には感服するばかりである。

これは物語では述べられていないが、中小企業団体中央会から600万円の補助金を支給される際、任意団体である「まちづくり・人づくり交流会」では支給対象から外れるため、坂本氏は最初、地元商店街の振興組合連合会や商工会議所に形だけ受け皿になってくれるよう要請した。しかし、屋台についての理解が得られず、摂り付く島もなく門前払いを食わされた。

ほかに頼める組織はない。ここで諦めたら流れが止まる可能性がある。坂本氏は商工会議所の副会頭を直接自宅へ訪ねて事情を訴え、賛同をとりつけることで状況を一転させた。軍資金が当初の一人一万円計四十万円から三ヵ月後には600万円とゼロを一つ増やすことができた要因として“ボス交”による副会頭からの根回しで壁を突破できたことも見逃せない。

「よいこと」を実現するためには、清濁あわせのむ政治力や、いい意味で手段を選ばないマキアヴェリ的知恵も駆使するイノベーターの行動原理をここに見ることができるだろう。

(つづく)