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観光カリスマ
坂本和昭のブログ


■2023-11-12-Sunday イノベーションの作法⑨

理想主義的プラグマティズムの要諦④ (102頁)

人の本質がわかる人間は目的実現のシナリオが書ける

こうした行動原理がヒットを生み出した例は数多くある。例えば、ヤマハのヒット商品に「光るギター」という電子ギターがある。(以下略)

実践的知恵の醸成⑦ (341頁)

「ライオン」の力と「キツネ」の知略を持つ

強い思いを持って現場に行き、見えない本質や真実をつかみ、直観的に新しい仮説を浮かべ、それを言語化し、形式知して、説得する。ここから真に実践的な〈知恵〉を身につけるためには、第三のステップとしてもう一つ試金石がある。

物語を語り、相手を説得するときには、対話を通して全身全霊をかけて自らの思いをぶつけながら、自分なりの論理も駆使しなければならない。しかし、新しい仮説だけに、それでもなお説得が難しい場合も少なくない。

マツダ・初代ロードスター、サントリー・伊右衛門、北の屋台の事例などは、その典型だろう。(中略)

北の屋台の仕掛け人である坂本氏は、広さわずか三坪という不便さに屋台の本質を見抜き、「人と人とのコミュニケーションを取り戻す」というまちづくり構想の中にしっかりと位置づけた。しかし、地元帯広の人々は、「帯広の冬は極寒→屋台は暑い地方のもの→帯広には向かない」「屋台は地味→まちおこしにならない」という考え方に縛られ、当初は受け入れなかった。

新たな未来を創造するには既存の論理の鎖の延長上ではなく、新しい仮説を創出して一つ次元が上の出発点を生み出す必要があるが、いくら物語を語り、新たな論理の出発点を示しても、既存の論理の鎖に縛られている人々にはなかなか通じない。俗にいう、「言葉が通じない」とはこのことだろう。

このギャップを突破するには、目指すものを実現するため、どれだけ理想主義的プラグマティズムを実践できるかどうかにかかっている。すなわち、マキアヴェリ的な清濁あわせのむ政治力や方法論を駆使できるかどうか。これが第三のステップである。(中略)

北の屋台の仕掛け人坂本氏は、屋台村によるまちづくりという構想に地元の理解が得られていないと見るや、一年間は情報宣伝活動に徹する作戦をとり、その過程で、本来、偏りのない客観報道を原則とする新聞媒体を巻き込んで、意図的かつ徹底的に「利用し」、地元市民の関心を高めた。特に設置場所の駐車場探しでは、候補地を報道に載せることで、地主も協力せざるをえない状況をつくっていった。はたして、これらイノベーターたちの政治力や手練手管は非難されるべきか。(中略)

北の屋台の坂本氏の場合、警察や保健所などの行政や法規制を恐れることなく果敢に行動に出ながら、法律の抜け道を見つけて壁を突破すると、次は遠回りの道も苦にせず、チャンスの到来と見ると打って出た。

論理や言葉での説得が難しい場合、状況に応じて、マキアヴェリ的な方法や戦術も駆使して、目的を実践していく。大切なのは、この経験を繰り返し、思考と行動のクセをつけることである。〈知識〉がどんどん〈知恵〉化し、血肉化されていけば、ここぞというときに、勝負に出る勝負師のカンも磨かれていくことだろう。

(おわり)

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以上、9回に亘って転載したが、368頁もの文庫本版では、「マツダ」「サントリー」「近畿大学水産研究所」「新横浜ラーメン博物館」「KDDI」「シャープ」「ソニー」「NTT」「サッポロビール」「トヨタ」「アルビレックス新潟」など等、日本が世界に誇る錚々たる企業の中に、北海道の一地方都市帯広の「北の屋台」が取り上げられたことは驚きであった。

私が自分で書いたのではなく、赤の他人である学者とライターがわざわざ帯広まで取材に来て協働で執筆してくれたのだ。しかも、北の屋台というよりも坂本和昭個人のことを面映ゆくなるほど持ち上げてもらった文章である。改めて読み返してみると赤面ものであるが嬉しいことでもあった。